ヘルメット任意・免許が不要に:道路交通法改正による規制緩和で電動キックボードのルールはどう変わる?
道路交通法改正について
2022年4月20日に衆議院で道路交通法改正案が可決されました。これにより今までは原動機付き自転車 (以後、原付)として区分されていた電動キックボードが新区分である特定小型原動機付き自転車 (以後、特定小型原付または特定小型) に入ることになります。
しかし、法案が可決されたからといってすぐに新しい制度が始まるわけではありません。
本記事では特定小型原付が従来の原付とどのように違うかに焦点を当て新しい法律について解説します。また、施行時期についての注意点なども取り上げていきます。
<2023年2月7日更新>
道路交通法改正案の施工は2023年7月1日に施工されることが決定しました。詳しくは最新の記事をご覧ください。
特定小型原付という新区分
今回の法改正によって特定小型原付という新しい区分ができました。特定小型原付の定義は以下となります。
- 電動である
- 最高速度20km/h以下に制限されている
- 長さ190cm×幅60cm以内である
- 特定小型原付に必要な保安部品が装着されている
本当はもう少し細かいのですが、おおまかにいうとこれらを満たせばどんな車体でも特定小型原付に区分されます。
つまり、電動キックボードだけではなく、例えばSWALLOWの製品のFiidoのような小型電動バイクも基準を満たせば特定小型原付としてヘルメットが任意で乗ることもできるのです。
なお、法案が提出される前の初期では小型低速車という名称でしたが、途中で特定小型原付に変更されました。
この記事では解説を簡単にするために 特定小型原付 = 電動キックボード という書き方で進みますが、本当はもっと多様なモビリティーが含まれていることを覚えておいてください。
改正前のルールや規制緩和に至る経緯、多様なモビリティーについてさらに詳しく知りたい方は前回の記事をご覧ください。
いつから適用されるか
道路交通法改正案が可決されたからといってすぐに電動キックボードを特定小型原付として運転できるようになるわけではないので注意が必要です。新しい法律を施行するまでには色々な準備が必要だからです。
- 特定小型原付用ナンバープレート交付のシステムの開発
- 標識の設置
- 配布物の交通ルールの書き換え
- 保険の作成
- 車体基準の作成
- 車体基準の審査機関の設置
法律自体は可決されましたが上記にあげたようなことは今まさに準備している最中です。それらの準備には1~2年かかると言われています。法案が可決されたから即ヘルメットが任意着用になったり免許がいらなくなるわけではないので注意してください。
<2023年2月7日更新>
道路交通法改正案の施工は2023年7月1日に施工されることが決定しました。詳しくは最新の記事をご覧ください。
また、特定小型ではない従来の原付としての電動キックボードも残ります。原付として利用する場合引き続き免許・ヘルメットは必須となります。新しい法律は原付を置き換えるものではないことに注意が必要です。
以前の法律と新しい法律の比較
道路交通法が改正されたことによって生じる主な変更点をまとめました。なお、前述したように今回の道路交通法改正は電動キックボードのためだけではありません。自動配送ロボット、シニアカーなど多種にわたるモビリティーの規制を緩和するものですが、ここでは電動キックボードに関係する変更点についてのみまとめています。
改正前 | 改正後 | |
免許 | 原付の免許が必須 | 不要 |
ヘルメット | 必須 | 任意 (着用は推奨) |
走行場所 | 車道のみ | 車道、自転車レーン、条件付きで歩道 |
速度制限 | 時速30km (原付一種の場合) | 時速20km |
年齢制限 | 免許に準ずる | 16歳以上 |
免許が不要に
これまでは電動キックボードは原付扱いだったので原付に乗れる免許が必要でしたが、特定小型は免許がなくても乗れるようになります。
免許不要は今回の法改正で最も賛否が分かれた点であったと思います。車道を走るのだから免許は必須だろうという意見もある一方、自転車は必要ないのだから良しとする意見もあります。
SWALLOWでは免許不要を支持しています。免許が不要であれば、特定小型が自動車免許を返納した高齢者の移動手段として活躍するでしょう。また、地方などで遠くの学校に毎日通う必要のある学生の交通手段にもなるかもしれません。
道路の最低限のルールはもちろん必要ですが、それらは学校や地域の教育でもできるはずです。例としてJA共済が行っている素晴らしい活動をご紹介します。
ヘルメットの任意着用
免許と同じく原付を乗るためにはヘルメットが必須ですが、こちらも法改正により必須ではなくなります。ただし、着用は強く推奨されています。
シェアリング形態のビジネスではヘルメットの共有が大きなネックとなっていましたが、着用しなくてもいいのであれば大きく利用率をあげる要因になるかもしれません。
また、ヘルメットが必須ではないことで逆にヘルメットの着用率に貢献する可能性もあります。どうゆうことかというと、原付では着用するヘルメットの規格が決まっています。代表的なものにJIS規格などがあり、一定の基準をパスしたヘルメットしか着用してはいけない、という決まりになっています。
新しい法律ではヘルメットは必須ではない。逆を言えば、どんなヘルメットでもOKということになります。これにより、例えば通気性が良いヘルメットやデザイン性に優れているものを自ら着用する利用者も増える可能性があります。利用者にヘルメットを選べる自由が増えることは歓迎されることでしょう。
歩道は走れるのか?
SWALLOWで法改正に関して最も問い合わせが多い質問が 「歩道を走れるようになるのか」 です。
答えは、「基本的には歩道は走れない。ただし、条件を満たせば可能」です。どうゆうことでしょうか?
今回の法改正の目玉の一つはスピードにより区分を分けたことです。以下の資料は 多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会 中間報告書概要 から抜粋したものです。(少し前の資料なので名称や最高時速が若干違います)
上記を簡単にまとめると以下のようになります。
区分 | 最高速度 |
走行場所 |
代表的な車体 |
歩道通行車 | 6km/h | 歩道 | シニアカー、自動配送ロボット |
特定小型原付 | 20km/h | 車道、自転車レーン、路側帯 | 電動キックボード、小型電動バイク |
既存の原付 | 30km/h | 車道 | 原付スクター、バイク |
今回の法改正では最高速度を変えることにより、特定小型原付⇔歩道通行車の区分を行き来できるようになります。
どういうことかというと、車体で特定小型モードで走っているのか歩道通行者モードで走っているのか設定できるようになります。特定小型モードの時は最高時速が20km、歩道通行者モードでは最高時速が6kmまでしか出せないように作られています。
これにより、特定小型モードの時は車道を走りますが、歩道を走りたい場合は歩道通行者モードに切り替えることで歩道も走行できるようになります。
歩道通行者モードは交通量が多くて電動キックボードでは車道を走るのが危ない時の一時的な回避策として役立つでしょう。また、最高時速は車体側で6km (成人の歩行速度とほぼ同じ) に制限されているので一定の安全性も確保されています。
速度制限
上記でも述べたように特定小型扱いの電動キックボードの最高時速は20kmに車体側で制限されることが求められています。歩道を走行したい場合は時速6kmの歩道通行者モードに切り替えます。
速度がきちんと制限されるためには、車体がそのように作られている必要があります。つまり、SWALLOWのようなメーカに責任が求められます。そして、現在どちらのモードで走行しているのが一目でわかるような仕組みも義務づけられています。
それが識別点滅灯火と言われる装置です。
イメージとしては電動キックボードの前後にライトがついていて、特定小型原付モードの時は青く点滅、歩道通行者モードの時は緑に点滅します。識別点滅灯火は速度制限と連動していて、最高時速を20kmにしたら青く、6kmにしたら緑に自動で切り替わることが義務づけられています。
年齢制限
免許がないからと言って誰でも特定小型に乗れるわけではありません。新しい法律は16歳以上と義務づけられています。
事故・安全性について
新しい乗り物ができるとなると、やはり安全性が気になります。実際に事故が多発するのかはもちろん制度が始まってみないとわからないのですが、SWALLOWでは大きな問題にはならないと考えています。理由はいくつかあります。
- 大きな事故は歩行者との衝突で起こっている
- 大きな事故になり得る特定小型モードは車道のみ
- 特定小型モードで歩道を走っている場合は識別点滅灯火で取り締まりが容易
- それらのルールを守らない車体は容易に判断できるので取り締まりが容易
海外も含め、電動キックボードに関する重大な事故はルールを守らない利用者によって起こされてきました。例えば、30km/hで歩行者に衝突して被害者が首を骨折するような事故も発生しています。
このように本来歩道を走ることができない電動キックボードが速い速度で歩行者と衝突するという事故が昨年だけでも何件も発生しています。SWALLOWが知る限りにはなりますが、原付としてちゃんとルールを守って車道を走っている電動キックボードでの大きな事故は一件も発生していません。
このようにルールを守らない利用者を警察がきちんと取り締まることが重要となります。そして、警官が一目でわかるように識別点滅灯火が義務づけられているのです。
これまで取り締まりに消極的だった警察ですが、昨年12月頃から取り締まりを強化しているのでこの動きが全国に広まることで事故率を減らすことができるとSWALLOWでは考えています。
特定小型原付はほぼ自転車か?
今回の法改正を解説する記事やウェブサイトでは特定小型原付はほぼ自転車、と表現されていることが多々あります。しかし、本当にそうでしょうか?ここまで読んでいただけると自転車とは大きく違う乗り物であることがわかってもらえたのではないかと思います。
自転車であれば利用者が速く漕げばその分だけ速く走ることができますが、特定小型原付は車体側で速度制限されています。
また、法的に自転車は基本的には車道を走ることが決められていますが実際にはあまり守られておらず黙認されています。しかし、特定小型原付でモードを切り替えず歩道を走れば一目でわかるような仕組みがルールと車体に組み込まれているので警察が積極的に取り締まることができるようになるでしょう。
このように新しい法律は自転車で一部のルールが守られていない現状を考慮して設計されているのです。
まとめ
道路交通法が改正されたことにより特定小型原付という新区分ができ、電動キックボードは新区分に含まれることになりました。しかし、原付としての電動キックボードも引き続き存続します。
法改正がされてから実際に施行されるまでの過渡期は色々な誤解や誤った情報が出てくると予想されます。
SWALLOWは当ブログやSNSで正しい情報の周知に努め、電動キックボードが安心・安全に普及できるように活動していきます。
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