電動キックボードの法改正・規制緩和についてわかりやすく解説:なぜ?いつから?社会のメリットは?
⚠️こちらの記事は情報が古くなっています。法改正に関する情報については最新の記事をご覧ください。ヘルメット・免許が不要に:道路交通法改正による規制緩和で電動キックボードのルールはどう変わる?
電動キックボードの法改正・規制緩和とは?
警察庁が電動キックボードに関する規制緩和を行うために法改正を検討しているというニュースが2021/12/23に一斉に報道されました。報道によると免許不要、ヘルメットの任意着用など、かなり踏み込んだ緩和を検討していることがわかり話題になりました。この規制緩和が実現すると今まで全て原付扱いであった電動キックボードは、その一部が小型低速車という新区分でもっと手軽な乗り物になり、一気に普及する可能性があります。
この規制緩和は突然決まったものではありません。2019年より公道走行可能な電動キックボードの販売をしているSWALLOWはつねに規制緩和の動向を追ってきました。この記事では今回の規制緩和と検討されいる道路交通法改正について、現状の法律とルールを交えながら詳しく解説していきます。
2021年時点のルールについて再確認
規制緩和に関する解説を始める前に、まずは2021年現在における電動キックボードに関するルールについておさらいをしましょう。 まず一番大事なことは電動キックボードは原動機付自転車(以後、原付)に該当します。警視庁のホームページにも書かれているように以下のようなルールがあります。
- 運転免許証の携帯
- ヘルメットの着用義務
- 自賠責保険の加入
- 電動キックボード本体にミラーやライトなどの保安部品が必要
- 二段階右折
- 歩道の走行禁止
このように2021年時点で電動キックボードに乗る場合、原付スクーターと全く同じルールを守って乗る必要があります。
しかし、まだまだ知らない方もたくさんいるのでSWALLOWでは試乗会や購入されたお客様にこのようなチラシを配布してルールの周知に努めています。
街中でよくナンバーもヘルメットもない電動キックボードを見る、というお声をいただきますがそのような機体は公道を走行できない違法な車両になるので注意が必要です。
これまでの規制緩和に関する動き
今回の規制緩和に驚いた人も多いと思いますが、警察庁はいきなりこのような内容を決定したのではありません。ここに至るまでにいくつかの重要な動きがありました。 最も重要なのは経産省による新事業特例制度を活用した電動キックボードの実証実験です。今までに二度の実証実験が行われています。新事業特例制度の実証実験とは特別に認可を受けた事業者が決められた条件下でのみ規制が緩和されるというものです。
一度目の実証実験は2020年10月より開始された電動キックボードが「普通自転車専用通行帯」を走行できるようにする実験です。電動キックボードは原付に該当するので通常であれば自転車専用通行帯を走行できませんが、特例でこれを認めるという内容です。この実証実験では電動キックボードの最高時速を20kmに抑えることが条件の一つでした。
二度目の実証実験は2021年4月より開始され、現在でも行われているヘルメットの着用を任意にするいわゆる「ノーヘル」の実証実験です。この実証実験によりLuupなどが本格的な電動キックボードのシェアリングサービスを都内で開始しました。
SWALLOWも福島県南相馬市で同様の実証実験に参加しています。この実証実験では電動キックボードの最高速度を時速15kmに抑えることが条件の一つでした。実証実験では機体にGPSトラッカーをつけて走行地域や平均速度などのデータ収集を行なっています。
この実験は元々は2021年10月末までを予定されていましたが2022年7月まで延長されています。この延長は規制緩和の今後を予想するために大事なので後ほど解説します。
このような色々な実証実験で得られたデータを元にして警察庁は規制緩和の内容を決めています。これらのことからわかることは、今回の警察庁の方針は決して急に決まったことではなく、少なくとも1年以上前から準備されていたということです。
実証実験の結果は多様な交通主体の交通ルール等の 在り方に関する有識者検討会の報告書で確認することができます。
法改正についての具体的な内容
ここまで現状の電動キックボードに関するルールと法改正に関する準備がどのように進められてきたかを簡単に解説しました。
おさらいすると、
- 現行法では電動キックボードは原付にあたる
- 原付なので免許の所持やヘルメット着用などの義務がある
- 法改正につながる二度の実証実験が行われている
現時点では原付に区分される電動キックボードですが、法改正が行われ規制緩和が実現したときはどのように扱われるのでしょうか?自転車と同じ扱いになるのでしょうか?
小型低速車という新しい区分
あまりニュースで報道されていませんが、規制緩和されると電動キックボードは小型低速車という新しい区分に分類されることになります。小型低速車という名称はまだ仮称で正式な名称は議論されていますが、おそらくそのまま採用されるのではないかと思います。
今まで小型の原動機(排気量50cc以下のエンジンや定格出力600W以下のモーター)を搭載した乗り物は全て原付の区分に入っていたところを、新しい小型低速車という区分を作って、一部の電動キックボードがそこに入るという形になります。イメージとしては自転車より早く原付よりも遅い、電動の車両が入る新しい区分です。
後ほど解説しますが、小型低速車は原付を置き換えるものではありません。あくまで新しい区分を作って、そこに電動キックボードが入るということです。ですので、今原付として登録されている電動キックボードが乗れなくなるということではありません。
運転免許証が不要に
現状では原付の免許が必要になるのでこれは最も大きな緩和ではないでしょうか。免許が不要になることで今よりもずっとたくさんの人が電動キックボードに乗れるようになります。
免許が不要になることで最もインパクトがあるのはインバウンド(訪日外国人旅行)ではないでしょうか。現行法では国際免許で日本の原付に乗ることができる国は限られています。免許が不要になることで、観光に来た外国人も気軽に電動キックボードに乗ることができるようになります。
ヘルメットの任意着用
原付では必ずヘルメットの着用が必要なのでこれも大きな緩和です。付け加えると原付では法律上穴の空いた自転車用の通気性のよいヘルメットは禁止されています(バイクが事故した際、鉄などの突起物が頭に刺さることを守るためです)。今までデザインでヘルメットを敬遠してきた人もいると思いますが、今後は自転車用のヘルメットのようなファッション性が高いヘルメットの着用も可能になります。安全のためにヘルメットは着用するべきですが、ユーザーにとってヘルメットの選択肢が広がることは歓迎することでしょう。
保安部品の緩和
上記が電動キックボードに乘る際のルールに関する緩和ですが電動キックボード本体についても緩和がありそうです。すでに説明したように原付としての電動キックボードはミラーやライトなどの保安部品が必要でしたが、一部の保安部品は不要になる可能性があります。保安部品に関する議論は警察庁ではなく国交省が主体となって行われており、新たなモビリティ安全対策ワーキンググループで議論されています。まだ決定はしていませんが、直近の2022年2月のワーキンググループでは以下のような提案がされています。
- スピードリミッターは必須
- ミラーは不要
- ウィンカー、ブレーキランプなどの灯火類は引き続き必要
- ブレーキは独立した2系統が必要
- ホーン(警音器)は必要だが自転車くらいのレベルでよい
- 速度計は不要 (引き続き議論の余地あり)
このブログでも随時更新していきますが、より詳しい情報を知りたい方は国交省のウェブサイトに資料が掲載されているのでそちらをご覧ください。
年齢制限と速度制限
しかし、これだけの大きな緩和が無条件で行われるわけではなく、年齢と速度が制限されます。まず年齢ですが、16歳以上であれば免許なしで電動キックボードに乗れるようになります。
電動キックボード本体の速度を20km/hに制限することも求められています。これは今までの議論を見ている限りではメーカー側で対応する必要がありそうです。まだ正式には決まっていませんが、販売業者やレンタル業者は電動キックボード本体に速度を20km/hに制限するスピードリミッターを装着することが義務付けられそうです。
規制緩和の社会的メリット
電動キックボードの規制が緩和されることで「危ない」、「車の迷惑になる」になるなどの否定的な意見も見られます。しかし、このような見方は大きな視点が欠けています。こちらもニュースではあまり報道されませんが、そもそも電動キックボードの規制緩和は道路法改正案の一部にすぎません。政府はここ数年にわたり多様なモビリティ普及推進会議という取り組みを進めてきました。その狙いは、今後乗り物が電動になり小型化することで登場する新しいモビリティーを安全に便利に使える社会作りを進めるためです。
具体的には6km/h, 15km/h, 30km/h の速度上限で区分を作り、それぞれの区分で機体に関する基準や交通ルールを作ろうという取り組みです。
出典: 多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会 中間報告書概要
例えば6km/hの区分では今までシニアカーは椅子が必須とされていますが、立ち乗りも認めるような提言がされています。これにより例えばトヨタが開発したC+walk Tのような新しい形のモビリティーもシニアカートして利用可能になります。今まで座ることでしか運転できなかったシニアカーが立ち乗りになることでアクティブシニアにとってもっと使いやすいモビリティーになります。
15km/hの区分ではすでに説明したとおり小型低速車という区分ですが、電動キックボードだけではなく現在は公道を走行することができない、セグウェイのような電動並行二輪車や電動一輪車も走行できるようになることが視野に入っています。現在は電動キックボードに関する議論が最も活発ですが、警察庁としてはまずは電動キックボードの緩和を進め、その後徐々に他の種類のモビリティーにも新ルールを適用していくという方針のようです。
(12月の有識者検討会でこのような発言がありました。議事録が公開され次第情報のソースを追加します。)
新車両区分ができることで他にもたくさんの社会的メリットがあります。
- 免許証を返納した高齢者の移動手段
- 公共交通手段がない地方でのインフラとしての可能性
- 足が不自由な方やその他の障害を持つ方に対して多様な移動手段の提供
- ラストワンマイル問題に解消により満員電車や交通渋滞の軽減
このように道路法改正は電動キックボードに関わる事業者だけではなく、社会全体に対して大きなメリットがあります。
規制緩和はいつからか
さて、いよいよいつから規制緩和がスタートするかという話をしたいと思います。時期についてはまだ正式な公表はされていないのでここからはSWALLOWの予想の話です。
SWALLOWでは2022年7月に部分的にスタートするのではないかと考えています。
なぜ7月かというと、先に解説した「ノーヘル」の実証実験が延長されたのが7月までだからです。もし、7月で規制緩和が開始されず実証実験が期限切れになればすでに実証実験の枠組みを使ってビジネスを行なっている事業者にとって問題になってしまうからです。再延長という可能性もありますが、2021年内で今回の方針を固めた警察庁の動きはかなりスピーディーなので7月までになんらかの動きがある可能性は高そうです。
では、7月になると一斉に電動キックボード解禁か?というとそうもならないと考えます。道路交通法改正案が国会で承認されてから実際に施行されるまではタイムラグがあります。なぜなら、新しい交通ルールの周知や道路標識の準備には時間がかかるためです。
規制緩和の適用はまずは実証実験に参加している事業者の機体に限定し徐々に個人所有などのその他の機体にも適用されるのではないでしょうか。このように特定の事業者から緩和を開始して徐々に広げていくやり方は海外では一般的です。例えばイギリスでは今まで電動キックボードでの公道走行は禁止されていましたが、コロナ後の需要拡大に伴い特定地域で運用されているシェアリング事業者の機体から解禁し徐々に地域を広げていく計画です。
よくある質問(FAQ)
ここまで読んでいただきありがとうございます。最後に電動キックボードの規制緩和に関するよくある質問について回答していきたいと思います。
原付はなくなるの?
原付は存続するようです。ただし、排ガス規制によりガソリンを動力とする既存の原付50ccスクーターはどんどん減っていきます。それに代わり電動のスクーターが今後は主流になっていくと予想されます。
歩道は走れるの?
規制緩和後も電動キックボードは基本は歩道は走行できません。速度を6km/hに制限することで歩道も走れるように検討されていますが2021年12月の時点ではまだ結論は出ていないようです。また6km/hに制限して歩道走行可能とする場合な車体に何らかの速度表示装置の装着の義務化が検討されています。
ナンバープレートはどうなるの?
従来の原付のようにナンバープレートの装着義務があるかは2021年12月の時点ではまだ決まっていません。そもそも電動キックボードの車体登録にする必要があるかや、税金が発生するかも決まってないので今後の議論に注目です。ただし、海外の動向を見ているとナンバープレートの装着が義務付けられた場合でも今よりもずっと小さな形になると思われます。
保険はどうなるの?
原付では自賠責保険への加入が法律で義務付けられています。小型低速車に保険が義務付けられるかは現在議論中です。
今電動キックボードは買うべき?
上記で解説したように、SWALLOWでは個人所有の電動キックボードの規制が緩和されるのはまだもう少し先だと予想しているので、個人で電動キックボードに乗りたい方は規制緩和を待たずに買ったほうが良さそうです。もし規制緩和がされたとしても機体の保安基準が厳しくなることはまずないので、原付として公道走行可能な電動キックボードは簡単に小型低速車に変更できるはずです。SWALLOWでもそのために準備を進めているので、目処がつき次第ホームページで公表します。